【2019年版】病院事務職の最新転職トレンドは? 専門家が解説(前編)
若手・女性を中心に病院事務職の転職希望者が増加する一方、病院の経営環境が厳しくなるのに伴い、医療機関側のニーズには変化が見られると言います。「特に管理職はスキル・経験をもつ人材にニーズが集中。また、人事やシステム部門などには異業種からの人材を求める声も高まっている」と話すのは、雪竹舞子氏(エムスリーキャリア事務職紹介グループ)です。2020年の診療報酬改定を控え、さらに活発化しつつある病院事務職の転職市場。最新の動向を聞きました。
医事課ニーズが高く、スキルの高い人材に集中
──最近の病院事務職の採用・転職市場の動向について聞かせてください。
医療機関・求職者ともに意欲が高く、転職市場は活発な状態が続いています。エムスリーキャリアでお預かりしている求人の内訳を見ると、医事課の経験者募集が約半数を占めています(2019年9月時点)。医療機関の経営が厳しくなる中、3年後・5年後を見据えて、医業収益を漏れなくミスなく算定できる体制を作らなければという意識が高まっているのでしょう。一部の病院では、これまで派遣やパートをメインとしていた医療事務を正社員・常勤に切り替え、長期的に育てていこうという動きも見られます。
背景として、院内のスキル・ノウハウ不足があります。事務職の業務を外部委託している病院では特に人材が育っていません。しかし昨今では派遣会社にも知識・スキルを持つ登録者が枯渇しており、特に中小規模の病院やクリニックでは自前で人材を雇わざるを得ない、しかも即戦力とし て多業務を担えるマルチプレーヤーでないと現場が回らない、という状況が生まれているのです。
こうした理由から、紹介会社を利用してでも経験者を強化したいと考える医療機関が増えているようです。
──どのような人材の評価が高いのですか。
経験者として基本的な業務を行えるだけのスキル・知識があることが前提となります。たとえば、医事課職員ならレセプト業務を一通りでき、特に入院に対応できる、というのが最低ラインでしょう。その上で、管理職は以下のような力も求められます。
・地域内でのポジショニングや医療政策の動向から自院の戦略を導き出す力
・医療者も巻き込みながらプロジェクト実行を推進するコミュニケーション力
・変化をいとわず対応できる柔軟性
・課題に対して精度の高い仮説を立て、検証する力 など
マネジメントを担う管理職には院内全体を俯瞰する視点の有無が問われます。医療機関も存続をかけて採用に臨んでいるため、即戦力となるような高スキルの病院事務職にニーズが一極集中しつつあります。このため、単純に“売り手市場”とは言えなくなっているのです。
ただし、前述したように自院で育てようという意識も高まっているため、中には管理職候補として入職し、現在持っている専門性を発揮しつつ、マネジメントを学ぶことが可能な求人もあります。
管理職としてジェネラリストを目指すにせよ、特定の領域のスペシャリストを目指すにせよ、「自分がどのような働き方・キャリアを求めるのか」「自分のスキルは現状どのように評価されるのか」の2点をふまえ、そのギャップを埋めるための努力ができるかどうかが明暗を分けていくことになりそうです。
ニーズ高まるシステムや人事では他業界からの流入も
──ニーズの高い資格や部門などはありますか。
医師事務作業補助者や診療情報管理士など、収益アップにつながる資格が歓迎される傾向は2020年も続くと思います。
また、電子カルテを導入する医療機関が増えたり在宅医療の現場でITツールの活用が進んだりと、システム面の知識・スキルの重要性も高まっています。国としても診療データの共有・活用による効率化を推進していますから、デジタル化は今後ますます進むでしょう。
システムを導入し、現場で効果的に活用できるようカスタマイズ・調整する情報システム部門の存在感も増していくものと見込んでいます。
さらに、最近ニーズが高まっているのが人事です。
人事の業務は「採用」と「給与・労務管理」に大別されます。医師や看護師といった有資格者の採用は診療体制に直結するため経営へのインパクトが大きいですし、働き方改革の影響やワークライフバランスを重視する職員の増加もあり、職場環境の改善に着手する医療機関が増えていることが要因でしょう。
システムや人事は、どちらかというとこれまであまり重視されてこなかった部門です。そのため、スキルやノウハウを他業界に求める動きも出てきています。
特に人事は一般企業出身者を希望する医療機関が多いですね。ただし、一般企業での実績があるからと言って、医療機関ですぐ事務長など経営トップとして入職することはできません。医療機関は診療報酬制度や施設基準など、一般企業とは異なるロジックのもとに成り立っている業界ですから、これまでの知見を活かしながら医療について学んでいく気概が求められるでしょう。
在宅や経営委託の増加…20年度改定に向けた動きとは
──その他に最近のトレンドがあれば教えてください。
2018年以降、東京などの都市部を中心に在宅クリニックの求人数が急激に増えました。 国は2025年をめどに地域包括ケアシステムの実現を目指していますから、今後もニーズの高まりが予想されます。
一方で、診療報酬の算定ルールが異なることもあり、病院事務職の経験者にとっては在宅医療というとまだマイナーな印象があるようです。
一口に在宅医療といっても、事務職の働き方には2つのパターンがあります。事務所でレセプト業務を担うタイプと、医師の診療に同行して運転や一部診療のサポートなどレセプト以外の業務にも従事するタイプです。在宅クリニックへの転職は、ご自身がどのように医療に関わりたいかもふまえて検討するのがいいでしょう。
在宅医療の形はまだ定まっておらず、医師がタブレットでカルテを入力し事務職員にデータを飛ばす、というやり方のところもあれば、紙カルテをクリニックに戻ってからレセプト対応する、というところもあるなど、業務の内容や働き方は法人によってばらつきがあります。 特に診療同行は患者さんとの距離が近く、「医療に貢献している」とやりがいを感じる方もいれば、「カルテがなくなるとき(=お看取り)がつらい」と敬遠する方もいます。 また、在宅クリニックならではの特徴として、基本的にシフト制ではなく固定勤務制である点が挙げられます。これは、あらかじめ訪問診療のスケジュールが決まっているためです。このため、午前診と午後診の間の「中休憩」もありません。年収は普通のクリニックと同程度か、やや高めの水準です。
また、まだ数自体は多くないものの、近年ではコンサルティング会社に経営を委託するのもトレンドとなりつつあります。
そうした会社ではたとえば金融や人事など、経営のプロを各業界から登用しており、そのノウハウを医療機関に提供し、数年後を見据えた成長戦略を展開しているのです。法人成長のスピードが非常に速く、医療機関の経営に逆風が吹く中で拠点を増やし続けている法人もあります。
このような法人では効率性などの観点から、他業界の人材登用がますます進むでしょうから、病院事務職として自身が何を強みとするのかが、より問われる時代になっていくでしょう。
──2020年度の診療報酬改定に伴い、転職市場にも動きはあるのでしょうか。
毎回のことですが、改定前は医事課の求人数がぐっと増えます。2020年に入ってからは改定の対応に追われるため、計画的に人材を採用しようとしている医療機関は既に求人を出すなど動き始めています。ニーズが高まる分、たとえば「入院・外来のレセプト経験が必須」としていた法人が「どちらかだけでOK」「勉強する覚悟・姿勢があればOK」と募集要件が緩和されるケースもあります。転職を検討されているのであれば、年内~年明けにかけ、求人数が増えるこの時期に比較検討されることをおすすめします。
【2019年版】病院事務職の最新転職トレンドは? 専門家が解説(後編)